山で仙人に遭遇する
![](https://i0.wp.com/lakuda.net/wp-content/uploads/2018/08/富士宮2018_180718_0005.jpg?fit=2364%2C1773&ssl=1)
一昨日の夕方、仕事をまとめて焼津市と静岡市にまたがる山へ。
尾根を長く登るコースを考えていたけれど、崖崩れで断念し、
一番優しいコースを選択した。
先週、アクシデントで痛めた内転筋の様子を見ながら、リハビリで山練。
登っているうちに天候が変わり、一気に雨が降り出して来た。
雷もゴロゴロしているように聞こえる。
満観峰の山頂で折り返し、超特急(のつもり)で下の駐車場を目指す。
足場が悪くても、下りを攻めることができるシューズを選んで正解だった。
登山者は誰もいないし、薄暗い山の中は少し不気味に感じる。
おまけに土砂降り、早く帰りたい。
そこで、目を疑う光景に出くわした。
ヨボヨボのおじいさんが、びしょ濡れになりながら、
太い角材を担いでゼーゼー言いながら登って来るではないか。
一瞬、キリストが十字架を背負って丘を目指す光景にも見えた。
瞬間的に、疑問が浮かんだ。
「なぜこのおじいさんは、このバッドコンディションの中でここへ来たのか?」
「このおじいさんは、角材を背負ってどこまで行く気なのか?」
そこで挨拶がてら、「どこまで運ぶんですか?」と聞いてみた。
すると「崩れてる所が何カ所かあっただろ?そこを直すんだ」
確かに、雨で崩れかかっている場所は気になっていた。
しかし、おじいさんが担いでいる角材だけで補修が済むわけがない。
「悪いけど、下にまだ4本あるんだ。手伝ってくれないか?」
マジ!?
今担いでいるのじゃなくて、下から持って来いってか!?
そんな頼まれ事、そうは無い。
それも、自分にしかできない頼まれ事に思えた。
よっしゃ!任せろ!!!
自分のトレーニングはもうどうでもよくなり、
一気に山を下って行くと、登山道の入り口に、角材が並べてあるのを見つけた。
角材は五寸画で、長さは2m程だろうか。
1本担いで4往復するのは気が遠くなったので、重ねて一気に2本肩に担いだ。
これがまた、肩が潰れそうなぐらいに重い。
担いだ時点で、補修する場所まで行ける気がしなかった。
しかし、頼まれ事は試され事である。
行くしかない!!!
担いで登山道を走っているうちに、ついにおじいさんに追いついた。
この時点で肩の皮が擦り剥けて、ギブアップ寸前。
重みにもギリギリ耐えている状態。
おじいさんもフラフラで頑張っている。
僕が休むわけにいかない。
そんな時に、日頃から登山道の整備を、
おじいさんがボランティアでやっている話を聞かせてくれた。
それも、たった1人で、全部である。
僕にはそのおじいさんが神に見えてきた。
「昨日パチンコで5000円勝ったんだよ。それでジャンボエンチョーで4000円出して角材買ったんだ」
「そのままじゃ車に乗らないから、切ってもらったんだよ」
神もパチンコをするのか。
5000円勝つというのは、逆に珍しいのではないか。
この登山道の補修は、パチンコで勝つと行われるのか。
そんな疑問が次々湧き起こる。
そうこうしているうちに、補習箇所に到着。
ようやく角材を降ろすことができたが、まだ下にはもう2本ある。
おじいさんのこれまでの功績を考えると、角材2本なんて大したことない。
再度山を駆け下って、今度は左右の肩に1本ずつ角材を担いで再出発。
時間を掛けた方が肩が辛いので、苦しいけれど走った。
なんとか、角材を運び上げると、今度は鉄の杭を運ぶという。
鉄の杭は5本で一束になっていて、15本で3束あった。
これがまた、一束で15kg位はある、とんでもない杭だった。
角材に負けず劣らずのパンチ力!!
これを1人で運ぼうとしていたおじいさんの気が知れない。
鉄の杭も何とか運んだ頃には、雨も止んでいた。
平日も土日も、多くのハイカーが通る道を、人知れず直してくれている人が居る。
それも、かなりのおじいさんが、ボランティアでやっている。
誰かがやってくれているとは思っていたけど、
まさか天気が荒れた日に、薄暗い山の中で、その人に会えるとは思っていなかった。
いつもありがとうございます。
気をつけて。
また会いましょう!
そう言ってその日は別れた。
「続きは明日やる。今日はもうおしまい」
そう言ったおじいさんの顔は、しわくちゃだった。
2日経っても残る全身の酷い筋肉痛も、なぜか嫌じゃない。
夏の終わりの、貴重な経験だった。