山で仙人に遭遇する
一昨日の夕方、仕事をまとめて焼津市と静岡市にまたがる山へ。
尾根を長く登るコースを考えていたけれど、崖崩れで断念し、
一番優しいコースを選択した。
先週、アクシデントで痛めた内転筋の様子を見ながら、リハビリで山練。
登っているうちに天候が変わり、一気に雨が降り出して来た。
雷もゴロゴロしているように聞こえる。
満観峰の山頂で折り返し、超特急(のつもり)で下の駐車場を目指す。
足場が悪くても、下りを攻めることができるシューズを選んで正解だった。
登山者は誰もいないし、薄暗い山の中は少し不気味に感じる。
おまけに土砂降り、早く帰りたい。
そこで、目を疑う光景に出くわした。
ヨボヨボのおじいさんが、びしょ濡れになりながら、
太い角材を担いでゼーゼー言いながら登って来るではないか。
一瞬、キリストが十字架を背負って丘を目指す光景にも見えた。
瞬間的に、疑問が浮かんだ。
「なぜこのおじいさんは、このバッドコンディションの中でここへ来たのか?」
「このおじいさんは、角材を背負ってどこまで行く気なのか?」
そこで挨拶がてら、「どこまで運ぶんですか?」と聞いてみた。
すると「崩れてる所が何カ所かあっただろ?そこを直すんだ」
確かに、雨で崩れかかっている場所は気になっていた。
しかし、おじいさんが担いでいる角材だけで補修が済むわけがない。
「悪いけど、下にまだ4本あるんだ。手伝ってくれないか?」
マジ!?
今担いでいるのじゃなくて、下から持って来いってか!?
そんな頼まれ事、そうは無い。
それも、自分にしかできない頼まれ事に思えた。
よっしゃ!任せろ!!!
自分のトレーニングはもうどうでもよくなり、
一気に山を下って行くと、登山道の入り口に、角材が並べてあるのを見つけた。
角材は五寸画で、長さは2m程だろうか。
1本担いで4往復するのは気が遠くなったので、重ねて一気に2本肩に担いだ。
これがまた、肩が潰れそうなぐらいに重い。
担いだ時点で、補修する場所まで行ける気がしなかった。
しかし、頼まれ事は試され事である。
行くしかない!!!
担いで登山道を走っているうちに、ついにおじいさんに追いついた。
この時点で肩の皮が擦り剥けて、ギブアップ寸前。
重みにもギリギリ耐えている状態。
おじいさんもフラフラで頑張っている。
僕が休むわけにいかない。
そんな時に、日頃から登山道の整備を、
おじいさんがボランティアでやっている話を聞かせてくれた。
それも、たった1人で、全部である。
僕にはそのおじいさんが神に見えてきた。
「昨日パチンコで5000円勝ったんだよ。それでジャンボエンチョーで4000円出して角材買ったんだ」
「そのままじゃ車に乗らないから、切ってもらったんだよ」
神もパチンコをするのか。
5000円勝つというのは、逆に珍しいのではないか。
この登山道の補修は、パチンコで勝つと行われるのか。
そんな疑問が次々湧き起こる。
そうこうしているうちに、補習箇所に到着。
ようやく角材を降ろすことができたが、まだ下にはもう2本ある。
おじいさんのこれまでの功績を考えると、角材2本なんて大したことない。
再度山を駆け下って、今度は左右の肩に1本ずつ角材を担いで再出発。
時間を掛けた方が肩が辛いので、苦しいけれど走った。
なんとか、角材を運び上げると、今度は鉄の杭を運ぶという。
鉄の杭は5本で一束になっていて、15本で3束あった。
これがまた、一束で15kg位はある、とんでもない杭だった。
角材に負けず劣らずのパンチ力!!
これを1人で運ぼうとしていたおじいさんの気が知れない。
鉄の杭も何とか運んだ頃には、雨も止んでいた。
平日も土日も、多くのハイカーが通る道を、人知れず直してくれている人が居る。
それも、かなりのおじいさんが、ボランティアでやっている。
誰かがやってくれているとは思っていたけど、
まさか天気が荒れた日に、薄暗い山の中で、その人に会えるとは思っていなかった。
いつもありがとうございます。
気をつけて。
また会いましょう!
そう言ってその日は別れた。
「続きは明日やる。今日はもうおしまい」
そう言ったおじいさんの顔は、しわくちゃだった。
2日経っても残る全身の酷い筋肉痛も、なぜか嫌じゃない。
夏の終わりの、貴重な経験だった。