そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか⑤

そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか①
そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか②
そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか③
そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか④
レースの準備だったり、疲れを早く取りたくて、更新を遅らせてました。
島田大井川マラソンは2時間36分19秒で総合10位でゴール。
いい練習になりました。
ヴェイパー着用率は上位ほど多かったですね。
手に入らない状況ではないので、どの程度投資する気があるかという差、
履いてみて合う合わないの差、興味関心の差があるんだなと感じました。
では、今日はカーボンプレートについて。
カーボンが果たしている役割について、よりイメージを持ってもらうために、
簡略化した実験動画や画像も作ろうと考えたけれど、
そこまでやる必要は無いという結論に至った。
カーボンプレートの仕事は、すごくシンプルだからだ。
何度も書いている通り「転がりをガイドする」のがカーボンプレート。
曲げ戻しで進むと思われがちだけれど、まずカーボンプレートがそれに耐えられない。
ヴェイパーフライは、まず曲がらない。
ズームXに内蔵されたプレートは、レンゲのようなスプーン状になっている。
硬いプレートほど、何度も曲げ戻しの力が掛かると折れてしまう。
特に、前足部は湾曲もあるので、もっと曲がらない。
スプーンの柄は曲がるけれど、すくう部分は強固なことからも、
カーブのある物体は構造的に強いのがわかる。
厚底とカーボンに目が行きがちなヴェイパーフライ。
全体が揺りかご状になっている。
踵の部分は持ち上げられ、丸く形成。
つま先は、かなり浮いた形になっている。
揺りかごか、もっと言うと、シーソーの作り。
試しに、ヴェイパーのつま先を軽く押してみてもらいたい。
簡単に踵が浮き上がる。
それも、かなりの角度で。
一気に浮く。
離したときの戻りもスゴイ。
同じ事を、他の薄底のマラソンシューズで試して欲しい。
シューズの設計が、ソールの反発力で走るようにデザインされたか、
それとも重心移動で走るようにデザインされたかが分かる。
ちなみに、ヴェイパーフライゼロ%とも言われる、ズームストリークでやっても、結構浮き上がる。
ヴェイパーのつま先を押せば、
フルレングスのカーボンプレートが、転がりを作っているのがわかる。
動きの伝達性を上げるため、一体感を出す仕事をしている。
転がりの芯が、カーボンプレート。
揺りかごが揺れる、シーソーが傾く、その動力になっているのが、地面反力。
エネルギーリターンの良い、高発泡のズームXが、
地面反力のロスを少なくしているのは既に書いた。
そのおかげで、揺りかごは、速く大きく揺れる事ができる。
シーソーなら、反対側にバタンと傾く。
転がりの動きの特徴は、上下動の地面反力が、
前へ進むベクトルに変換される事だ。
上下動が大きくなるほどに、シーソーは加速するのである。
カーボンプレートよりも上にあるズームXは、着地感をソフトにする役割、
プレートより下にあるズームX(特に踵)は、地面反力をそのまま返して、転がりを作る。
そして、前足部(指の付け根辺り)のズームXは、シーソーの支点(つっかえ)になっている。
地面にガツンと、ドスンと落下できるランナーは、着地の衝撃=推進力になる。
しかし、自分で蹴ろうとしたり、落下が苦手だったり、
踵で着地できないランナーは、ヴェイパーフライを履きこなせないかもしれない。
INEOS1:59は、洗練された動きを観る貴重なチャンスだった。
世界トップクスラスのスピードランナーほど、
前から見て足裏が見えるほど踵の着地が上手い。
セントロでさえ、この踵着地。
フォアフットなんて存在しない。
ヴェイパーフライに設計された、転がる動きは、元々人間の足、体に備わっているものである。
体は走るときにこう動くという、デザインされた動きを妨げないように作られたのが、ヴェイパーフライだ。
そういう意味では、すごくナチュラルな動きへ導くシューズであり、
足が壊れたランナーや、情報汚染がひどいランナーには、履きこなせないシューズである。
転がる動きは、この地球上で最も効率良く進む事ができる。
自動車も、自転車も、タイヤが跳ねて進むより、転がるのが省エネで速いのは、当たり前の事。
体にも、同じ仕組みが組み込まれている。
誰がデザインしたのか、進化の過程で最適化されたのかは、わからない。
ヴェイパーフライが出てきて、シューズそのものでタイムが大きく変わったのは事実。
それはナイキが、シューズ作りの考えを改めた結果と成果である。
ソールの曲げ戻しの反発を追究してきた、これまでのマラソンシューズ開発は、
必ずしも人間の体のデザイン合致したものでは無かった。
かの有名なシューズ職人ですら、
筋力が筋力がと言って、蹴ることで体が進むと考えてシューズを作ってきたのだから。
これまでの薄底シューズが、マイナスにしてきた位置エネルギーを、
ヴェイパーフライが運動エネルギーに変えたことは、大きな技術革新である。
HOKA ONE ONEは速い段階から転がる動きをシューズにデザインし、
カーボンロケット、カーボンXを出した。
どちらも転がる動きを曲がらないカーボンによってガイドしている。
アシックスが作った、メタライド、グライドライドも、ヴェイパーフライと同じ動きをする。
これからも、どんどん転がる動きのシューズが出てくるだろう。
ヴェイパーフライの4%、5%という数字は、プラスになると思うかもしれない。
むしろ、ほとんどの人がそう思っているだろう。
しかし、実際には、今まで無駄にしていた、エネルギーのロスを抑えたという事を示している。
経費を抑えれば、売り上げが上がらなくても利益が増えるという、
経営の鉄則と全く同じなのである。
与えた地面反力以上の力は得られないが、
自分が与えたエネルギーは、少ないロスで返ってくる。
良くも悪くも、自分の実力をそのまま映し出すのが、ヴェイパーフライである。
以上、「そろそろ、ヴェイパーフライの話をしようじゃないか」シリーズ、完結です。
値段がどうとか、気に入る気に入らないとか、そんな野暮で下世話な話は、またの機会に。
長々とお付き合いありがとうございました。