「重さ=優しさ≠速さ」の方程式
静岡マラソン2019のシューズは、ズームフライフライニットだった。
上位モデルのヴェイパーフライと形は同じでも、
材質の違いから大きくかけ離れたグレードのズームフライ。
カニとカニかまぼこぐらい違う。
シシトウと青唐辛子くらい違う。
何度も書く。
ズームフライは脚には優しいが、速く走れるシューズではない。
スピードは出しにくい。
利点は、ミッドソールの「リアクト」によるクッショニング。
無尽蔵の耐久性、反発力と衝撃吸収性を併せ持ったナイキ独自の素材は、
脚に対するダメージを圧倒的に減らしてくれる。
その分、リアクトは重い。
これ程まで重いのかというぐらい、重い。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた超低発砲のソールは、密度が非常に高い。
利点を生み出すと同時に、それが短所でもある。
また、リアクトの反発は潰れて返ってくるまでに深さがあるので、
「パンッ!」とか「タンッ!」という跳ね返りではなく、
「ボヨン、ボヨン」という淀んだ跳ね返りになる。
スピードが出にくいのは、そのせいだと考えている。
今回、ズームフライをレースで履こうと決めたのは、
脚への負担軽減を優先しての事だった。
スピードは出にくいが、ハーフマラソンのベストはこれで出している。
トラックのペース走でも何度も使っていて、16000mまでならかなり慣れていた。
キロ3’20”~3’30”では使える事が分かっていたので、
最低限のスピードは保証しつつ、ペースの激落ちを防ごうという作戦。
長丁場のレースでは、どこで損切りをするかが、総合的なタイムに反映されてくる。
その結果、確かに2時間34分5秒という自己ベストは出た。
でも、走りながら後半に差し掛かる程に、シューズの重さに苦しめられた。
着地衝撃からは守られているが、脚筋力がジワリジワリと削られて、
それがガタ落ちは無いモノの、徐々にペースダウンしていく原因になった。
疲労も蓄積して、しんどくなってくる後半にこそ、
薄底の軽量シューズが活きてくるのだと、そこで初めて思い知った。
30km以降、ズームフライの厚底は、脚を守るどころか足かせになっていた。
「こんなに優しい着地なのに、この重さ!!!!」
そのどうしようもない切なさを、吐き出そうにも誰にも伝える術が無く、
残り5kmは筋力に任せて脚を進めた。
何かの資料で読んだ事がある。
シューズの重さが100g増えると、フルマラソンにおける有酸素性負荷が1%増加する。
これはタイムにするとおよそ1分らしい。
従来のマラソンシューズよりも、
両足で200gも重いズームフライは、2%の損失になる。
出典は忘れた。
あくまで参考に。
重さを取ってでも、脚を残して走り切ろうとして、結果、ベストタイムは2分縮まった。
縮まりはしたが、重さの代償も相当大きいと感じた。
率直に、ズームフライでなくても、同じぐらいのタイムは出せたと思っている。
もし、200g軽かったら、もう2分縮まったかもしれない。
残り10キロの、体が動くのにスピードが出せない、
言いようの無いしんどさは、シューズを考える貴重な経験になった。
ズームフライで自己ベストを出したランナーもいる。
自分もその一人である。
ハーフ(1:10’03”)もフル(2:34’05”)も、ズームフライで出した。
ズームフライの恩恵は大きい。
しかし、ナイキジャパンさんからの、お叱りを覚悟で言おう。
ズームフライじゃなかったら、もっと速く走れたかもしれない。
ズームフライの惜しい所は「他のシューズだったらもっとイケただろう」と、
本人にも周囲にも言わせてしまう所だ。
非常に優秀なシューズなだけに、もったいない。
今後も、ニュートラルな目線でシューズ選びをしていきたい。