第44回富士登山駅伝・振り返り②5区
第44回富士登山駅伝競走大会
第44回富士登山駅伝・振り返り①
昨日は自分の反省までたどり着かなかったので、今日はそこに絞って書いておこう。
スタートから、ロード区間で貯金を作るという作戦通り、レースは進んでいた。
3区から4区に渡った時点で、後続と3分弱の差を作り、
一般の部トップで山区間の4区へ入った。
4区では更に差が広がり、2位とは5分差で5区のタスキを受け取った。
5区は4.24kmで高低差1017mを登る区間(二合八尺→七合五尺)
前半は深い砂礫の急傾斜、後半は足場が硬くなる。
足場の悪さと高低差、酸素の薄さから、「最もやりたくない区間」と言われている。
更に復路では危険な下りも待ち構えている。
試走TTでタイムが出ていた事と、その時のラップタイムから、
キロポイント毎の通過目安を割り出しておいた。
コースは4.24kmとされているが、それは図面上の平面距離を測ったもので、
実際に走った沿面距離では、4.5km前後になる。
繰り返しのTTで、ラスト500mの頑張りで1分~2分変わる事を突き止めた。
1km通過:11分
2km:12分(23分)
3km:11分(34分)
4km:9分(43分)
ラスト500m:4分(トータル47分)
5区47分という目安は、試走のタイムからしても十分に狙えるものだった。
通過の目安も、無理のあるタイムではなく、むしろ余裕をもった最低ラインの設定にした。
何度もやったTTと、昨年、一昨年の大会を入れると、十数回も5区を走っている事になる。
試走の時と同じように行けば、本番の集中力とレースの流れが加わり、タイムは出る。
大丈夫、いつも通りと自分に言い聞かせて、ウォーミングアップをした。
5区をみんながやりたがらないのは、
コースそのものの過酷さに加えて、その区間だけでチームの運命が決まるからだ。
5区だけで付いた差が、決定打になり、勝敗が決まると言ってもいい。
後からどんなに巻き返そうにも、どうしようもない差が出てしまう。
多くの選手が、走り切る事すらできない傾斜に挑む覚悟、
チームの運命を背負う覚悟が、5区の選手達には必要になる。
身も心も、潰されそうになりながら、中継点に立つのだ。
僕が4区の高瀬のアニキからタスキを受けた時の後続との差は、4分30秒。
十分な差であるけれど、2位のトヨタの5区はスーパーエースが配置されていた。
フルマラソンは2時間15分、ハーフマラソンは1時間4分台の選手。
(僕はフル2時間34分、ハーフマラソン1時間10分。平地では競る事すらできない)
これまでずっとロード区間を担当していたのに、今大会は初めて山岳区間に入っている。
一体、どれほどのタイムを叩き出すのか、全くの未知数。
ただ、不動の王者であるトヨタが、ミスをすると致命傷になるこの区間で、
イチかバチかの勝負をするわけがない。
スーパーエースは、自信を持って配置されている事になる。
4分30秒の差を、もっと広げておきたい。
仕上がりの良かった体は、最初からよく動いてくれた。
しかし、1km地点の手前辺りで、異変が起きた。
手がしびれ出し、脚が動かず、呼吸が追いつかない。
「こんな所でしんどくなるわけがない!!!」
そうこうしている間に、1kmのオートラップが鳴った。
「1km10’28”」と腕時計の画面に映っていた。
予定よりも、30秒以上速い。
手のしびれは、酸素供給よりも消費が上回り、酸素負債を抱えた、酸欠状態の症状だった。
一言で言えば、僕は1kmしかもたないペースで突っ込んでしまったのだ。
長丁場(十数キロ以上)のレースなら、ハイペースで突っ込んで1kmで潰れても、
その後酸素負債から抜け出して、復活する事も可能ではある。
しかし、ここは平地の3分の2(14%)程の酸素濃度しかない環境。
一度抱えた酸素負債を返しながら、酸素供給と消費を維持するのは、生理学的に不可能。
歩いたり、止まったりすれば、酸素負債を返す事は出来るかもしれないが、
追ってくるのはトヨタのスーパーエースだ。
絶対に止まるわけにはいかない。
チームのために、逃げ切らなければならないのだ。
残りの数十分間、脳、心臓血管系から、筋肉、内臓まで、全ての臓器が酸欠状態になる。
自分の体の細胞が、どこまで耐えられるのか、全くわからなかった。
1kmから、最後のタスキ渡しまで、地獄を見た。
速い呼吸で酸素を取り込もうにも、呼吸が上手くできない。
脚はどんどん動かなくなる。
途中から視界が狭くなり、辺りが暗くなって、あまり記憶が無い。
粘って粘って、最後まで走り切ろうとした事しか、覚えていない。
30秒の突っ込みは、3分の借金になって返ってきた。
47分で走って6区につなぐ予定が、
結局は49分22秒で区間2位。
受けた時4分30秒あった差は、2分42秒差まで詰められてしまい、山頂6区へ渡す事になった。
1キロ通過:10’28”
2キロ:12’35”(23’03”)
3キロ:11’39”(34’42”)
4キロ:9’46”(44’28”)
ラスト500m4’54”(49’22”)
突っ込んでしまったのは、追われる怖さからだろう。
ビビッて落ち着いたペースで入れずに、自滅したのだ。
完全なるミス。
仲間が削りだしてくれた貯金を食いつぶしてしまった事を、
中継点の砂走館の裏で、ひたすら悔やんだ。
6区の細野さんにタスキを渡した時、
「よく頑張った!!」と言ってくれた、
その一言が、辛うじて僕の気持ちを和らげてくれた。
本番のコースは砂礫が乾いていて、ズブズブに足を取られる悪条件だった。
地面が締まっていたら、2位との差はもっと縮まっていたかもしれない。
50分を切れたのが2人だけだった事からも、
例年以上に難しいコンディションだったと言えるのかもしれない。
自分も潰れたけれど、悪条件だったおかげで、
2分詰められる範囲に収まったのはラッキーだった。
さて、後半7区の続きはまた、明日!!